資料の部屋

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大腸・肛門・便秘専門医 貞廣 荘太郎先生の治療方針

大腸・肛門の基礎知識

あけぼのクリニックでは、腸の健康を保つための食事指導、肛門疾患の専門的な治療を外来で行っています。

便秘、正常な俳便とは

まず便秘と正常な排便、排便に影響する因子について説明します。“便秘”の定義は難しく、便が硬い、回数が少ない、強く気張らないと(息まないと)排便できないなどを一般的に便秘と呼んでいます。下剤を使用していない人では、排便回数は1日1.2回、あるいは2.3日に1回の人が約75%を占めます。便秘は男性よりも女性に多く、男性では70歳以上になると急に下剤の必要な人が多くなりますが、女性では中学生の頃から約10人に1人は下剤を使用しています。

大腸の長さは約130cmですが、男子よりも女性の方が長いことがわかっています。年代が上になるほど男性でも女性でも大腸の長さは長くなります。下剤使用の有無や排便回数と大腸の長さとの関係を見ると、便秘の人では大腸の長さが長いこと、便の回数が多い人では大腸の長さが短いことがわかっています。

便秘の人では便秘でない人に比較して静脈血栓症、心筋梗塞などのリスクが増加し、米国人では死亡が23%多くなることが報告されています。しかし便秘の人に大腸癌が増加するという証明はありません。

外来での肛門疾患治療

肛門の病気の約90%は、内痔核・裂肛・痔瘻の3大疾患で占められます。内痔核と裂肛の大部分は、投薬に加えて結紮治療など外来での専門的な治療で改善します。

内痔核の症状は出血と脱出で、排便時息みによって肛門と直腸下部の内面が外方へ滑り出て、自然にはもとへ戻らなくなるとⅢ度と評価されます。欧州大腸肛門学会のガイドラインでは輪ゴム結紮治療が硬化剤注射療法よりも効果が高いとされているので、外来では輪ゴム結紮治療を第一選択にしています。内痔核を縛ることで肛門内面が奥につり上がる効果があります。内痔核に痛覚はありませんので、外来で麻酔の必要なく行っています。

排便で肛門に負荷がかかると再発しますので食事指導、生活指導も併せて行っています。

米国のガイドラインに沿った便秘治療

便秘の治療は食生活の改善から始めます。まず食物繊維の摂取量を増やすこととビフィズス菌などのプロバイオティックスを処方します。食物繊維とは人間の消化酵素では消化することのできない成分で、1日20-25g必要ですが日本人の平均摂取量は第二次大戦後減少し、現在は約15gです。ゴボウを100g食べても約6gしか含まれていません。食物繊維が不足すると便の量が減少し、腸管通過時間が延長し、大腸の内部の圧力が高まり、腹痛、便秘、結腸憩室症や内痔核の悪化の原因になります。シリアルの一つであるオールブランリッチを勧めます。小鉢1杯約40gを1日1回食べるだけでレタス3.5個分の食物繊維(約11g)を摂ることができ腸内環境が改善します。

食事の改善とプロバイオティックス内服でも不足の場合には、米国大腸外科学会のガイドラインに沿って、エビデンスに基づいた下剤を選択します。強く推奨されているのは浸透圧性下剤である酸化マグネシウムとモビコールです。ドラッグストアーで手に入るセンナ、アローゼンや漢方便秘薬などの“刺激性下剤”は腹痛を伴い、依存性あるため、短期間の使用に限定するべきです。最近発売された新規の下剤はまだエビデンスが少なく推奨程度は弱い推奨にとどまっています。一時期酸化マグネシウムの副作用として高マグネシウム血症が話題になりましたが、北海道薬剤師会の調査では4年間延べ1億8000万人の使用者の中で、高マグネシウム血症の発症は15名のみですので、腎機能の悪い人以外では安価で調整性もよく、安全に使用可能と考えています。一方腎臓の機能の低下している人にはモビコールを処方しています。